カモ井のリボンハイトリ
昔こどものころに、こ汚い店の厨房なんかにこれが垂らしてあって、それもびっしりハエで真っ黒になってるのなんか見ちゃって、汚ねぇ!て思ったことがあった、だからそんな不衛生な存在としてしか印象がありませんでした。
あるときに読んでいた小説家小川洋子のエッセイに、このハエ取り紙のことが書かれていました。
岡山県出身の彼女はこの「カモ井のリボンハイトリ」カモ井加工紙株式会社と同郷。
実際に会社を訪ね、そのとき聞いた話に感銘を受け、以来シンパシーを持ってハエ取り紙と接するようになったのだ、と。
なんとこの会社はきちんと、一年に一度、ハエ供養を行っているそうなのです。
忌まわしき存在として人から蔑まれるハエ、彼らを一網打尽にできる製品を作っていながら、きちんと彼らの魂を鎮めているという話。
これに共感できるのは、何もこの作家さんだけではなく、日本人になら誰にでも備わっているものなのではないでしょうか。
わたくしもそのお話に深くこころを打たれ、何度となく父にこの話を伝えてきました。
なんて素晴らしい会社なのか、と。
あの負のイメージでしかなかったハエ取り紙に未だかつてなかったような感情が湧いてしまうではありませんか。
一度でいいから会ってみたい、と。
会ってまたわたしなりの新しい印象を与えてみたいんだ、と。きっといいやつだから。
たぶん、汚くない。
が、ハエはスプレーでシューするもんだと思っています。
ハエで悩んだ時には殺虫剤の一発解決でことを済ませてきました。
そういう世界にしか住んだことがなかったわたしに「カモ井のリボンハイトリ」を買おう!という発想が湧くはずありません。
そして、今日、とうとう父が突然これを買って来たのです。
念願の、ハエ取り紙、いや、正式名称「カモ井のリボンハイトリ」との初めてのご対面!
朝店に来て、これが暗い厨房にポンっと置かれていたときは、一瞬何があるのか分かりませんでした、またなんか変な最新の花火でも見つけて来て衝動買いしたか、と思ったくらいでした。
明るいところでこれと対面した時には声をあげましたね。
これや!ほ、ほんものや!
ほらほら、見てみてーーー!初めて自分で開けたよ!わーい!
右に回して、・・・なかなか回らない!・・・ん!?ろうで固めてある?
あ、だから、説明書に「引き出しにくいときは少し温めてから引き出すとスムーズに」なんて書いてあるのか!
びろびろびろ・・・出たーーー!!!
が、画鋲が、ご丁寧なことに「天井に止めてください」の押しピンまでセットされてある!
なんて画期的な商品か。
うわーー床に落とした!あーー手についたら指ねちょねちょーーひぇーーーーー!
31歳、初めてのハエ取り紙体験。
とりあえずみんなの顔にひっつかないような厨房の隅っこに引っ掛けておきました。
・・・けど。
うちって、そんなにハエが出るような店じゃないから、すぐに要らなくなry